ビジネスアイデアパターン

高級品を高品質で安く製造


高級食材や高級ジュエリーなど、高級と呼ばれるものは様々ありますが、飼育が困難、採取が困難、製造が困難などの理由により希少価値が上がり、品質の高さと希少価値が相乗的に働くことで高級とされているケースがほとんどです。しかし、これらと同等レベルの品質のものを、人工的に安価に作り出す技術を開発することで、業界を激変させるマーケットを切り開ける可能性があります。このように、高級品を高品質で安価で製造できる新技術を開発するというビジネスモデルです。

■合成ダイヤモンド

ダイヤモンドは、地球のマントルにおける特定の高温高圧条件下で、炭素同士が結びつくことにより生成される、極めて希少性の高い宝石です。地中奥深くの特定の条件でのみ生まれるという希少性と、カットすることで光り輝くその美しさから、高級なものとされていますが、人工的に製造しようとする技術開発は以前から各社が挑戦してきました。中でも、米国のダイヤモンド・ファウンドリー社は、マントルの条件を再現することで、天然と見分けのつかないレベルの高品質の合成ダイヤモンドの製造に成功し、天然よりはるかに安い価格で市場に投入しています。天然ではなくても、成分や品質はほとんど変わらないことから、合成ダイヤモンドは一定の評価を得て市場を広げています。

■近大マグロ

日本人が多く食べるマグロですが、漁獲量が減少し価格が高騰する中、養殖マグロの開発に近畿大学が成功しました。捕獲した天然マグロの稚魚を育てて養殖する技術はこれまでにもありましたが、人工孵化により誕生させた完全養殖マグロの開発に成功したのは、近畿大学が初めてです。希少価値と高品質の相乗作用により高騰するマグロの市場を、完全養殖で作り出す技術開発が大きく変え、飲食店や百貨店などにも多く出荷されています。完全養殖が市場を変えた、代表的なビジネス事例です。

■真珠の養殖

真珠は、貝の体内に外套膜が偶然入り込むことで生成される宝石で、自然の偶然により生まれる極めて希少性の高いものです。その希少性の高さと美しさから、天然真珠は高級品とされてきました。そこで、人工的に真珠の核を挿入することで真珠の養殖を行う技術の基礎が今から100年以上も前に誕生し、天然真珠と全く品質が変わらないことから、安価で市場に広まりました。このように、自然の偶然により生まれるという希少性を、人工的に行うというアプローチが、市場を大きく変えた代表事例です。

■雪国まいたけ

舞茸は、山奥のブナ科の大木の根元に生える希少で採取の大変なキノコで、松茸と同等とも言われる高級な食材です。また、舞茸は害菌に非常に弱いため、人工栽培は不可能と言われてきました。しかし、株式会社雪国まいたけは、研究開発の結果大量生産に成功し、安価で大量に市場に投入しました。現在では当たり前のようにスーパーで安く売られ、舞茸の市場を大きく変えました。希少な高級食材の人工栽培に成功し、市場を変えた代表的な事例です。

■ウナギ味のナマズ

ウナギは多くの人から愛される食材ですが、脂の乗った美味しい天然ウナギは非常に希少で高価です。そこで養殖ウナギも開発され、餌の工夫などにより品質は向上し、現在は多くが流通しています。一方で、養殖ウナギとは全く異なるアプローチで、ウナギと同品質の食材を安く提供しようという新たな研究開発が行われ、成功しました。それが、近畿大学が開発した、ウナギ味のナマズです。知らずに食べると本物のウナギのように感じられる品質の高さに、大手スーパーでの取り扱い事例も出ています。類似した食材を活用して、高級食材を安価で提供するという、新たな切り口のビジネスです。

■養殖マダコ

マダコは日本人が特に好むタコの一種で、漁獲量も多く希少性はないのですが、国内の需要があまりにも多いため、海外からの輸入に頼らざるを得ない状況にあります。その結果、世界における購買競争が起こり、価格も上がりつつあります。そこで、日本水産株式会社は、これまで誰も成し得なかったマダコの養殖の研究開発を行い、世界で初めて完全養殖に成功しました。今後、安価で美味しい完全養殖マダコが市場を変えることへの期待が高まっています。

■ウニノミクス

ノルウェーとオランダに本社のあるウニノミクスBV社は、ウニの養殖ビジネスを手がける会社です。ウニは日本人には非常に人気のある食材で、寿司ネタとしては高価格帯で扱われる高級品です。一方で、ウニが大量に発生して海藻を食べ尽くし、その周辺の海洋生態系を変化させることで漁獲量が激減するという、いわゆる磯焼けと呼ばれる問題があります。そのため、大量発生したウニを回収し駆除するという磯焼け対策がこれまで行われてきましたが、回収したウニは栄養不足のため肝心な身は全く入っておらず、処分せざるを得ませんでした。そこで、回収したウニに、改良を重ねた餌を与えて10週間程度養殖したところ、黄色い身の詰まったウニを生産することに成功し、商品化を実現させました。処分されるものに付加価値を付けて再生し、高級品に変えるという、業界全体にとってメリットのあるビジネスになっています。

■人工イクラ

イクラは、以前は希少価値の高い高級な食材として扱われていましたが、人工イクラの登場により安価な回転寿司店などでも取り扱われるようになりました。人工イクラは、アルギン酸とカルシウムの反応により皮膜を作り、その中にイクラのエキスなどを入れて製造される、いわゆるコピー食品です。天然イクラと見分けのつかないほどの完成度で、多く流通していました。その後、海外産の天然イクラが安価で調達できるようになり、人工イクラの市場は縮小傾向にはありますが、高級品を人工的にコピーすることで市場を切り開いた代表的事例と言えます。

■人工キャビア

キャビアはチョウザメの卵であり、その希少性から高級食材として扱われており、その品質によってはかなり高額で取引されます。そこで、人工イクラと同様に、人工キャビアが各社から出されるようになりました。人工イクラの横展開ではありますが、高級食材と同等レベルの品質を人工的に再現し安価で提供するというビジネスモデルは、広く応用が可能であることを示しています。また、天然キャビアよりも減塩でヘルシーだと謳う商品も出てきており、天然を超えた付加価値という新たな視点にも可能性があります。

■養殖松茸

高級食材の代表格とも言える松茸ですが、マツ属の特定の木の根元に生えるキノコで、土壌の影響も大きく受けるため、育つ条件が限定され、非常に希少性が高いと言えます。風味も豊かで食感も良く、かつ希少性が高いことから、高額で流通しています。そこで、養殖の松茸を作れば、市場を大きく変えることができるのではないでしょうか。もちろん、以前からこのような研究をしている人はいますが、生きているマツ属の木でしか生育しないため、それを人工的に再現することが難しく、成功には至っていません。今後の研究により、実現する日は必ず来ると思われますし、それにより市場が大きく変わることが予想されます。また、こちらも既に取り組みは世界中で進んでいますが、トリュフにも全く同じことが言えますので、今後の研究への期待は計り知れません。

■人工ゴールド

高級貴金属の代表とも言えるゴールド、すなわち金ですが、人工的に製造する技術が開発されれば、市場に大きなインパクトを与えることは間違いないのではないでしょうか。もちろん、製造コストも含めて、天然と比べて安価に製造できることが前提ではありますが、核融合などの技術の応用から、不可能とは言い切れないものと思われます。今後の研究により実現する日が来れば、金の価値、金の市場は、大きく変化するでしょう。