セールスアイデアパターン

ストーリーを伝える


人が物を購入したくなる心理は、物が作られる過程のストーリー、物を作った人のストーリー、物を購入した後のストーリーなど、ストーリーに共感することで形成されることが多くあります。このような消費者心理を意識し、商品自体の機能や特徴をアピールするのではなく、商品を取り巻くストーリーを顧客に伝えることで、商品の購入意欲を掻き立てるというセールスモデルです。

■ファクトリエ

ファクトリエは、日本の各地に眠る高い技術力を持った縫製工場を発掘し、オリジナルのアパレルを製造して販売しています。インターネットのホームページでは、各縫製工場の職人のストーリやアパレル商品が完成するまでの感情に訴えかけるストーリーを詳細に描いています。縫製技術は高く、商品のクオリティは非常に高いにもかかわらず、下請けの仕事ばかりで薄利事業となっているメイドインジャパンの縫製工場に、ストーリーという最高の付加価値を付けて消費者の心に訴えかけることで、工場名がタグに入った高価格帯のオリジナル商品が驚くほど売れています。ファクトリエの山田敏夫代表は、実際に縫製工場を訪ね歩き、その現場、職人、技術、音、声を肌で感じ、代表自らの心に響いたストーリーをホームページで伝えることで、消費者の心を惹きつけ、購買心理に強く訴えかけています。

■二木の菓子

二木の菓子は、上野のアメ横で長年愛され続ける菓子の専門店で、1万種類という圧倒的な品揃えが特徴です。定番の菓子はもちろん、各地に眠る銘菓を発掘し、販売しています。実際に地方に足を運び、毎月何百種類もの地方銘菓を試食して選び抜いています。地方の銘菓には、それが生まれたストーリー、作り手のストーリーがあります。店頭のポップで、菓子の味ではなく、心に響くそれらのストーリーを表現することで、顧客の心を惹きつけています。地方の銘菓を取り巻く生産者のストーリーや、それを購入して食べることで期待される消費者のストーリーが描かれたポップは、広く話題となっています。

■アップル

パソコンや関連機器の性能は急速に進歩し、ほとんどのメーカーの製品は、大きな差がないレベルにまで来ています。しかし、アップル製品は、機能ではなく想いやストーリーを徹底して伝えることで、圧倒的な支持を得ています。有名なスティーブジョブズのプレゼンテーションにも顕著に表れており、世の中に革命を起こしたいという想いだけを徹底して伝えています。特に、初代iPhoneを発表したプレゼンは有名で、革命を起こすために生み出した商品がMacでありiPodでありiPhoneであるというプレゼンの流れになっています。製品の機能の詳細には触れず、革命を起こすためにこれらの製品が生まれたという想いとストーリー、そしてこの製品を手にすると生活に革命が生まれるというストーリーを終始訴えているのです。想いとストーリーを伝えるという徹底した戦略が、顧客の心を掴み、大きな売り上げにつながっています。

■ワイス・ワイス

株式会社ワイス・ワイスは、物語のある雑貨や家具を手がけるメーカーです。手がける商品の全てに物語があることが最大の特徴で、その物語が顧客の心を惹きつけ、大きな売上を上げています。例えば、新技術でガラスに漆を塗った食器、袴に使われる生地で作ったポーチ、丈夫な伝統和紙で作ったカバン、栗の木の端材を有効活用した椅子、環境に優しい馬で運搬した杉を使った椅子など。商品の裏側にある物語が、顧客の共感を得て、高価格帯にもかかわらず売上を伸ばすことができるのです。更には、物語のある家具を使用して、外食店の内装プロデュースも行っており、スターバックスの一部の店舗や、ファミレスなども手がけています。

■生産者のストーリーを載せたメニュー

外食店では、食材にこだわるが故に、価格帯が少し高くなってしまうメニューがあります。そこで、こだわった食材の裏にあるストーリーをメニュー表に載せ、顧客の心にアプローチをすることで、そのメニューを注文する顧客が増えるのではないでしょうか。単純に産地やブランド名などを謳うのではなく、どのような人が、どのような想いで、どのような手間と苦労をかけて育て上げた食材なのかをストーリーとして表現することで、強く心に響きます。

■開発者の想いを載せたホームページ商品情報

どのようなジャンルのメーカーでも、ホームページには必ず商品情報が載っています。しかしそのほとんどは、パッケージ写真、原材料名、使用方法、効果など、ごく一般的な内容が無機質に並べられています。そこで、全ての商品について、なぜこの商品を作ろうと思ったのかという想いや、商品化するまでに苦労した点など、開発者の想いを載せることで、消費者の心に強く響き、売上高上につながる可能性があるのではないでしょうか。ヒットした商品の開発ストーリーが、雑誌や新聞に取り上げられることはよくあり、私も取材を受けたことがありますが、全ての商品にストーリーがあるはずです。それを伝えることが、とても重要なのです。

顧客の心に響くストーリーを書くためには、実際に売りたい商品と同一ジャンルの商品を題材に書かれたストーリーを読むことで、大いに参考になるはずです。実は、そのようなあらゆるジャンルのストーリーを読むことのできるサイトがあります。それは、クラウドファンディングのサイトです。どのような想いでその事業を行いたいのか、その商品を作りたいのかというストーリーを描くことで、読者の心を動かし、効率的に資金を調達することことができるのです。商品やサービスを売るのではなく、それを実現するために必要な資金を調達することが目的ですから、強い想いを伝え、読者の共感を得ることが重要なのです。クラウドファンディングのサイトは多数ありますので、ぜひともサイトを覗いてみて、ストーリー構成の参考にして欲しいと思います。