ビジネスアイデアパターン
百貨店のように何でも取り扱っている、便利屋のように何でもできるというのはひとつのメリットですが、あくまでも浅く広くというビジネス展開です。一方、ビジネスを特定のジャンルに絞ることで、顧客からの期待値と信頼度が高まります。特定の商品の専門店です、特定の分野の専門家ですと言うことで、特定のジャンルにおける専門性が高く、品揃えやクオリティーにおいても優れているというイメージを持たせることができるのです。どうせ買うなら専門店で買いたい、どうせ食べるなら専門店で食べたいという、顧客心理が生まれるのです。これが専門店化のビジネスモデルです。また、商品の仕入れや原料の調達などにおいて、ジャンルが集約されているため、手間もかからず価格面でも有利な場合が多くあります。
SABARは、株式会社鯖やが展開するとろさば料理専門店です。魚料理の専門店は多くあり、ふぐ料理のように特定の魚に特化した専門店もありますが、初めて鯖料理に特化した専門店として展開しています。徹底した鯖への執着には特筆すべきものがあり、鯖の塩焼き、鯖の味噌煮などの鯖に特化したメニューは鯖にちなんだ38種類、デリバリーに使うのは鯖の人形が付いた「サバイク」、更には鯖の養殖事業や食品メーカーとの鯖関連商品の共同開発などへも事業を拡大しています。鯖に関しては第一人者として認められる存在となり、専門店化というビジネス戦略により、業界からの信頼度が大きく増しています。どうせ鯖を食べるならSABARで食べたいという顧客心理を強く誘発し、売上を伸ばしています。店舗ごとに工夫されたコンセプト設定も人気の要因で、鯖宮城やサバーランドなど、ユニークな店舗作りを進めています。
たんす屋は、東京山喜株式会社が運営する、着物専門リサイクルショップです。衣類のリサイクルショップは多くありますが、初めて着物だけに特化した専門店として展開しています。着物は年齢層の高い方々の家のたんすの中に眠っていることが多く、その多くが高い価値を持ち、状態も良好です。一方、若年層は、着物に対する憧れはあるものの、着る機会が少ない上に高額であるため、なかなか購入できないのが現状です。そこに目をつけ、両者をつなぐ仕組みを作りました。着物の世界は奥が深く、高度な専門性を必要とします。生地や柄によっても評価は大きく変わるため、専門家でなければ扱うのが難しく、鑑定もできません。だからこそ、信頼の置ける着物の専門家という立ち位置でリサイクルショップを展開することで、売る側も安心して売ることができ、買う側も安心して買うことができます。
日本全国に道の駅が乱立する中、専門店化の戦略により、大成功をしている道の駅が各地にあります。その土地の特産品に特化して専門店化をしているのです。静岡県伊豆の国市にある、道の駅「伊豆のへそ」では、その土地の特産品であるいちごの「紅ほっぺ」の専門店として展開しています。いちごソフトクリーム、いちごパフェ、いちごババロア、そしていちご狩りもでき、110種類以上のいちご関連商品を取り扱っています。また、千葉県の南房総にある、道の駅「とみうら」では、特産品であるびわの専門店として展開しています。びわシャーベット、びわワッフルクッキー、びわゼリー、びわカレーなど、50種類以上のびわ関連商品を取り扱っています。このように、その土地の特産品の専門店化をすることで、多くの道の駅が存在する中、大きな人気を集めています。
東京八丁堀にある「そんなバナナ」(sonna banana)は、バナナジュースの専門店です。厳選したバナナと牛乳だけから作られていて、フレッシュで濃厚な味わいを楽しむことができ、賞味期限はわずか20分です。トッピングとして、黒ごま、きなこ、コーヒー、アーモンドなど、15種類から選ぶことができ、様々な味を楽しむことができます。一年中手に入り、原料供給が比較的安定しているバナナに着目したことで、専門店でありながらも、専門店の最大のリスクである原料不安も抑えられています。フルーツジュースの店はたくさんありますが、バナナというひとつだけのフルーツに特化することで、大きな注目を集めています。
ROJI日本橋は、缶詰を中心に扱う専門店です。惣菜、つまみ、フルーツなど、普通のスーパーでは売っていない珍しい缶詰も多く取り揃えています。全国各地の名産缶詰もあり、専門店ならではの品揃えです。店内の一角には「缶つまBAR」も併設されており、缶つまをアレンジしたメニューを味わうこともできます。食材という切り口ではなく、缶詰という形態に特化した専門店を展開することで、需要の波を平準化することができ、更には缶詰という賞味期限の長い食品に特化することで在庫リスクも軽減され、最も理想的な専門店ビジネスモデルとなっています。
人にはそれぞれ好みの色があり、インテリアやファッション、小物など、自分好みの色で統一している人も少なくありません。特に、白や黒といったモノトーンカラーで統一している人は、より一層こだわりが強い傾向にあり、カラフルな原色系のものは好みません。つまり、白で統一している人は、白いものばかりを買うということです。そこで、白いものだけを販売する、白専門店があってもいいのではないでしょうか。白い時計、白いソファー、白いカバン、白い万年筆など、あらゆる白い商品ばかりを取り揃えます。多くのカラーバリエーションを展開している商品でも、白専門店では白しか置きません。それにより、いつも自分好みの商品があるという印象を顧客に与えることができ、リピート率の高い店舗となります。
日本は、言わずと知れた高齢化社会であり、当面はその傾向が更に進みます。そのため、若年層から中高年をターゲットにしてきた外食産業も、売上を伸ばすためには、高齢者をターゲットにする必要があります。しかし、高齢者にとっては硬くて食べにくいメニューが多く存在するため、安心して外食ができない現状があります。そこで、高齢者も安心して食べに行くことができる、やわらかい料理専門のレストランがあってもいいのではないでしょうか。やわらかいメニューもあるというのではなく、やわらかいメニューしかないというのが重要で、それにより、自由にメニューを選べる喜びと安心感を与えることができ、高齢者に愛される外食店を作ることができます。
専門店化というビジネス戦略は非常に有効ですが、どのレベルにまで対象を絞り込み特化させるのかが重要です。専門店化をすることにより多くのメリットを得ることができる一方、絞りすぎるとリスクも増えてきます。また、ジャンルによっては特化すること自体がリスクと紙一重である場合もあります。例えば、季節商品に特化するとオフシーズンは全く売れない、ひとつの農産物に特化すると自然災害が起きた場合に全く原料調達ができなくなるなどのリスクです。ぜひとも、リスクとリターンのバランスを考慮し、特化するジャンルを選定してほしいと思います。専門店化におけるリスクとリターンの考え方については、姉妹サイト「ファイナンシャルコンパス」で詳しく解説していますので、そちらも参考にしてほしいと思います。