商品アイデアパターン

物性を変える


世の中には、常識として固さや柔らかさなどの物性が決まっているものがたくさんあります。この商品は固い物である、この商品は柔らかい物であるという、いわば固定概念のもと、当たり前のように決まった物性になります。また、メーカーは、常識にとらわれることにより、固い方が好まれるに違いないというように、消費者の嗜好を勝手に決め付けているケースも多く見られます。しかし、実際はそうでない場合もあるのです。そこで、あえて物性を大きく変えてみることで、消費者の潜在的な嗜好を掘り起こす、新たなメリットを生み出すという、商品アイデアパターンです。

 

■きらず揚げ

きらず揚げは、株式会社おとうふ工房いしかわが販売している、おからを原料とした煎餅です。煎餅と言えば、ザクザクとした軽い食感が常識で、そのような食感の物が好まれる傾向にあります。しかし、おとうふ工房いしかわは豆腐メーカーであり、豆腐の製造で出てくるおからを用いて煎餅を作っているため、通常の煎餅のような食感にはならず、どうしても堅くなってしまいます。あまりに堅いため、消費者は好まないであろうと決め付けて、はじめは商品化を躊躇していましたが、小さい子供の歯固めになるので堅い方がありがたいという小さい子供を持つ母親からの声を受けて商品化しました。栄養価が高く、歯の健康にもいいことから、多くの消費者に愛されるようになり、年間4億円を超える大ヒット商品となりました。食感を大きく変えることで、これまでの常識を超えた新たな価値を生み出すことに成功した事例と言えます。

画像引用元:株式会社おとうふ工房いしかわHP(http://www.otoufu.co.jp)

■エアウィーヴ

エアウィーヴは、株式会社エアウィーヴが販売するマットレスです。硬くて反発性が非常に高いのが特徴で、体の動きに対してスムーズにマットレスパッドが反応し、寝返りが楽になるため、質の高い睡眠をサポートします。マットレスは柔らかい物が好まれることが多く、硬いマットレスは敬遠され、発売当初はなかなか売上が伸びませんでしたが、大学と共同で睡眠の質について科学的に研究し、硬くて反発性の高いエアウィーヴが睡眠の質を高めることを明らかにしたことにより、消費者から注目されるようになりました。根拠のない好みではなく、根拠のある科学により価値を証明することで、常識とは対極とも言える硬いマットレスでありながら、大ヒット商品となっています。

 

画像引用元:株式会社エアウィーヴHP(https://airweave.jp)

■爽

爽(そう)は、株式会社ロッテが製造するラクトアイスです。アイスと言えば、なめらかでクリーミーな食感が好まれるというのが業界常識ですが、爽は、固い氷の粒を含みシャリシャリとした食感が特徴です。なめらかでクリーミーな食感を作り出すために、各社は配合や製法を思考錯誤しているなか、あえてシャリシャリとしたアイスに仕上げたのです。かき氷のような食感を持つアイスということで話題となり、これまでの常識とは正反対の食感のアイスが人気を呼び、ロングセラーとなっています。

■免震構造

地震に備えた建築物の安全性は、地震大国日本において非常に重要であり、古くから様々な対策がなされてきました。その基本となる考え方が、いかに強固な基礎と建物を作るかというものです。つまり、大きな地震にも耐えうる、固い頑丈な建築にするのです。これが耐震という考え方です。しかし、技術が進むと、免震という考え方誕生します。基礎や建物に、ゴムなどによる柔軟性のある構造を取り入れることで、地震による揺れを吸収し、揺れを軽減するのです。固くて頑丈な建物にするという業界常識を覆し、柔らかくて柔軟性のある構造を取り入れるという発想により、揺れに対して非常に効果的な建築となり、現在では高層ビルの主流となっています。

■自動車

自動車のボディは固い鉄でできており、これが自動車業界の常識となっています。これには様々な理由がありますが、万が一の事故の際、車内の人を安全に守るためには、やはり固い鉄であることが重要です。しかし、ボディを固くすることだけが、車内の人を守る手段と言えるのでしょうか。逆に、スポンジ素材や、エアーバッグのような柔らかい構造を自動車のボディに採用してみてもいいのではないでしょうか。万が一の事故の際も、柔らかい構造が接触のショックを吸収し、むしろ車内が安全に守られる可能性が十分にあります。また、自動車同士の接触ではなく、接触の相手が歩行者であった場合、柔らかい構造のボディであれば、車内だけでなく歩行者をも守ることができるのです。このように、固くして安全を守るだけでなく、あえて柔らかくするという発想により、より優れた機能を生み出せる可能性があります。