企業や研究機関で研究開発を行う上で、最も重要なのはアイデアです。商品開発、技術開発、課題解決を実現するための、アイデアを導き出す手順があります。研究開発者応援ルーム「研究開発ラボ」では、マニュアル化された手順と、決まったアイデア発想のパターン、そして革新的アイデアが生まれた具体的な事例を紹介し、研究開発者の誰もが活躍できるようサポートします。
商品開発や技術開発のほとんどは、課題解決の考え方がベースになっています。ほとんどの新商品は、顧客の課題を解決するために開発されますし、目的を達成するために技術的に何らかの課題があるからこそ新たな技術開発が行われます。つまり、課題を解決するためのアイデア、いわゆるブレイクスルーが、研究開発者の仕事を支えていると言っても過言ではありません。しかし、アイデアを生み出すことが得意な人と、そうでない人がいるのが現状です。それでは、アイデアを生み出すことが得意で、次々と革新的なアイデアを発想できる人とは、どのような人なのでしょうか。実は、2つのパターンに分けることができます。
1つ目のパターンは、右脳人間、いわゆる天才肌の人です。夢で見たとか、天から舞い降りたとか、ひらめいたとか、そのような感覚で突発的で偶発的にアイデアが浮かぶ人は、このパターンに分類されます。日本人の多く、特に男性の多くは左脳人間だと言われていますので、このような才能を誰もが身につけることは不可能です。右脳人間にしか革新的なアイデアを発想することができないと思い込んでいる人が多くいますが、それは全くの誤解です。その答えこそが、2つ目のパターンにあります。
2つ目のパターンは、思考法、すなわち論理思考をベースとし、必要に応じて適切な発想法を組み合わせる二次元思考ができる人です。二次元思考は極めて左脳的で、誰もが簡単に実践できる思考法なのですが、これまで体系化されてこなかったため、二次元思考を知る術も、学ぶ術もありませんでした。ごく一部の人が、自分の感覚の世界で、自然と実践されてきた思考法なのです。そこで私は、この二次元思考を誰にでも実践できるように単純化し、マニュアル化しました。それが、思考法をベースとした二次元思考である「イデアルテ思考」です。論理的に物事を整理し、切り分けて考え、そこに抜け漏れなくアイデアを当てはめていく、極めて左脳的で視野を絞った考え方ですので、マニュアル的に簡単に革新的なアイデアを量産することができます。つまり、革新的なアイデアが、必然的に生まれてくる思考の手順です。二次元思考については、サイト内の「発想法&思考法ルーム」で具体的な事例も併せて詳細に解説していますので、必ず目を通し、理解をしてほしいと思います。
ここまで紹介した2つのパターン、右脳人間と二次元思考ですが、誰にでも簡単に実践できるのは、当然ながら二次元思考です。ぜひとも二次元思考「イデアルテ思考」を理解し、実践し、革新的なアイデアを必然的に量産することで、課題を解決してほしいと思います。課題解決のアイデアが出ない、次の一手が思い浮かばない、そんな悩みは、決して発想法で解決しようとしてはいけません。思考法をベースとした二次元思考を、ぜひ実践してみてください。
世の中に数多く存在する発想法のほとんどは、アイデアを拡散せていくためのツールです。拡散させるということが特筆すべき特徴で、拡散させた後には必ず収束をさせなくては、最終的な答えにはたどり着けません。しかし、無秩序に広げられたアイデアを収束させることは簡単ではなく、実際に具現化につながるアイデアにはなりにくいのです。
一方、二次元思考は、まず初めに論理思考により分割して整理し、その後、切り分けられたカテゴリーごとにアイデアを列挙し、最後に列挙された中から適したものを選択します。そのため、誰もが同じ手順を追って思考することができ、必然的にアイデアが量産されます。最後は選択するだけですので、面倒な収束させるという作業は必要ありません。まとめると以下のようになります。これら2つの考え方が全く異なる手順であり、全く異なる結果につながることを、ぜひ理解してほしいと思います。
○発想法
拡散→収束
○二次元思考
分割整理→列挙→選択
二次元思考は、上述の通り思考法をベースとした一定の法則により革新的アイデアを必然的に量産していく考え方で、サイト内の「発想法&思考法ルーム」で詳細に解説しています。解説の中では、新商品アイデアの思考、飲食店の売上を上げるための思考について例を挙げていますが、基礎研究レベルの課題解決にも応用可能ですので、基礎研究の例を挙げて応用方法を説明したいと思います。
ここでは、医学の分野で比較的研究の進んでいる動脈硬化の治療に関して、二次元思考を応用してみたいと思います。ほとんどの人にとっては全く意味のわからないこと、一部の専門家にとってはごく当たり前のことが書かれているかと思いますが、あくまでも考え方の事例のひとつとして認識してください。それでは、まずはじめに、動脈硬化が発症する経緯について、論理的に分割して考えていきます。
<課題発生経緯の論理的分割>
血管内皮細胞に傷がつく
↓
血中LDLが血管壁に蓄積する
↓
酸化ストレスによりLDLが酸化LDLに変わる
↓
血中の単球が血管壁に侵入する
↓
単球がマクロファージに形質転換する
↓
マクロファージが酸化LDLを泡沫化する
↓
マクロファージが増殖因子を産生する
↓
血管平滑筋細胞が遊走し増殖する
↓
血管壁が肥大し動脈硬化病変を形成する
次に、論理思考によって切り分けることで整理された課題発生経緯の各パーツにおいて、ひとつずつ解決策のアイデアを列挙していきます。ここでは、「血管平滑筋細胞が遊走し増殖する」というパーツの事例を代表して示します。基礎研究の場合、アイデアを列挙する際も、徹底してメカニズムに着目することが重要です。
<解決策の列挙>
血管平滑筋細胞に対し下記の策を講じる
・PDGFレセプターを阻害する
・FGFレセプターを阻害する
・Rasへのシグナル伝達を阻害する
・MAPKKK/MAPKK/MAPKへのシグナル伝達を阻害する
このように、ひとつのパーツにおいても数多くの解決策が挙げられます。また、これらの解決策を更に掘り下げることで、より具体的なアイデアを導き出すことができます。例えば、上記の「PDGFレセプターを阻害する」という解決策に対して、具体的なアイデアを以下に列挙してみます。
<具体的アイデアの列挙>
・PDGFレセプターのアンタゴニストを投入する
・PDGFと複合体を形成する因子を投入する
・PDGFを分解する
・PDGFレセプターの2量体を乖離する
・PDGFレセプターの自己リン酸化を阻害する
研究が進んでいる分野であればあるほど、解決策を掘り下げる作業を繰り返す必要がありますが、最終的には必ず斬新なアイデアを導き出すことができます。このように、基礎研究の分野においても、二次元思考「イデアルテ思考」を用いることで、ビジネスアイデアの発想と同様に革新的なアイデアを生み出すことができるのです。ぜひともイデアルテ思考の手順に沿って物事を考え、革新的アイデアを量産し、研究成果をあげてほしいと思います。
研究開発を行う中で、革新的なアイデアが生まれるケースには、いくつかの決まったパターンがあります。これらのパターンは、ある程度の頻度で発生し、アウトプットにつながる確率が非常に高いため、常に頭の隅に置いておくことをおすすめします。そのひとつが、「意に反する偶然の現象に着目する」というパターンです。例えば、何かを柔らかくしたいという目的で技術開発をしていたところ、ある技術を試したら、意に反して硬くなってしまったという場合です。その時の技術開発の目的には合致しない結果ですが、硬くなってしまったことによって、全く異なる使い道が生まれる可能性が高いのです。ヒット商品誕生の背景として、実際にそのようなケースが多く存在しますので、具体例をいくつか紹介します。
ポストイットは、アメリカの3M社が開発した、いわゆる付箋です。接着力が強く剥がれない接着剤を開発していた研究者が、試作を繰り返した結果、簡単に剥がれてしまう接着剤ができてしまいました。強力な接着剤を開発していたわけですから、完全に意に反する結果です。しかし、意に反する偶然の現象を無視しませんでした。くっつくけど簡単に剥がれてしまうという特性を活かし、付箋という全く異なる使い道が生まれ、大ヒット商品が誕生したのです。
フリクションは、株式会社パイロットが開発した、消せるボールペンです。熱に安定で時間が経っても色あせず、消えないインクを作ることが、インクの研究開発者の使命です。しかし、鮮やかに色が変わるインクを作ってみたいという新たなアイデアから、インクの試作を繰り返していました。その結果、色が変わるのではなく、熱で透明になってしまうインクができました。しかし、意に反する偶然の現象を見逃さず、熱で色が消えるという特性を活かして研究開発を進め、消せるボールペンという大ヒット商品を生み出したのです。
研究開発を行う中で、革新的なアイデアが生まれるケースには、いくつかの決まったパターンがあります。そのひとつに、「目的とは異なる側面も無視しない」というパターンがあります。例えば、何かを柔らかくしたいという目的で技術開発をしていたところ、ある技術を試したら、不思議と色が赤くなったという場合です。柔らかいか硬いかを評価しなくてはいけない技術開発ですが、それとは全く異なる色というベクトルに変化が起こっていますので、目的と関係がないため無視してしまうことが多々あります。確かに、その時の技術開発の目的には合致しない結果ですが、色が赤くなったことによって、全く異なる使い道が生まれる可能性が高いのです。ヒット商品誕生の背景として、実際にそのようなケースが多く存在しますので、具体例を紹介します。
使い捨てカイロを発明して商品化したのは、お菓子メーカーのロッテのグループ企業であるロッテ電子工業株式会社(現在のロッテ健康産業株式会社)です。お菓子の酸化劣化を防ぐための脱酸素剤の開発において、脱酸素能力を高めるため、配合する鉄粉や活性炭などの量を増やして実験をしていたところ、熱が発生しました。目的としていた脱酸素とは全く異なる発熱という現象を見逃さず、カイロに応用できる技術であると考え、使い捨てカイロという大ヒット商品が誕生したのです。
研究開発を行う中で、革新的なアイデアが生まれるケースには、いくつかの決まったパターンがあります。そのひとつに、「自然界の神秘にアイデアを求める」というパターンがあります。何十年に一度と言われるような革新的な技術が生まれる時、不思議とこのパターンがよくあるのです。つまり、開発したい目的の技術と同じような機能を持つものが、自然界に存在していることが多いということです。飛行機の技術が生まれた背景には、鳥のように空を飛びたいという人間の強い思いがありました。夜を明るく照らす電球の技術が生まれた背景には、蛍のように暗闇を明るくする生命の存在がありました。あとは、自然界に既に存在する機能を、いかに人工的に再現するかというだけなのです。実際に、近代科学、近代工学の世界でも、自然界に存在する機能を人工的に再現し、革新的な発明が生まれたケースが多くありますので、具体的な事例をいくつか紹介します。
ヨーグルトのフタを開けると内側に付着しているヨーグルトにストレスを感じ、付着しないフタが開発されました。森永乳業株式会社と東洋アルミニウム株式会社が共同で開発したもので、ヨーグルトが付着しないような撥水性機能を持つ素材を開発し、商品化しました。開発のアイデアのヒントにしたのは、強力に水を弾くハスの葉です。ハスの葉の細かい凹凸構造をヒントに、素材の研究開発を行い、商品化が実現しました。ハスの葉が水を弾くという自然界の神秘にアイデアを発し、革新的な商品が生まれたのです。
シールドマシンは、地中を掘り進みながら、掘ったトンネルに壁となるパネルを敷き詰めて固めていく機械で、主に地下鉄を作る際に使われています。世界初のシールドマシンは、イギリスで作られました。トンネルを掘りながら壁を固めるという方法を発明する上で、アイデアのヒントにしたのは、木材を食べて巣穴を掘りながら、液を出して周りを固めていくフナクイムシです。掘りながら固めるという自然界の神秘にアイデアを発し、革新的な機械が生まれたのです。
マジックテープは、面ファスナーという一般名称で、自由に貼ったり剥がしたりすることができ、様々なものに使われています。発明されたのはスイスです。発明者が愛犬と一緒に山へ行き、帰ってくると、愛犬や自分の服にゴボウの実が付いていました。顕微鏡で見ると、ゴボウの実には無数のフックのような形状をしたトゲが覆っていました。この形状をヒントにして、マジックテープが生まれたのです。フックのような形状のトゲにより毛などに付着しやすくなっているという自然界の神秘にアイデアを発し、革新的な技術が生まれたのです。
革新的なアイデアは、二次元思考により誰にでも量産することは可能ですが、あくまでも机上の空論に過ぎません。最終的には、そのアイデアを具現化するための技術力、実行力が必要となります。そして、具現化するまでの道のりには、新たな課題が立ちはだかります。これを繰り返すことで、革新的な商品、サービス、ビジネスが生まれます。
研究開発者は、机上で作られたアイデアを具現化するために、実験や試作を繰り返します。そして、膨大なデータが蓄積されていきます。それらのデータのほとんどは、実際のところ、いまいちパッとしないものばかりです。開発しようとしている目的の技術と合致しないデータは、ほとんど目を向けられることがないのですが、そのようなデータの中にこそ、上述の、「意に反する偶然の現象」や「目的とは異なる側面」が潜んでいます。その時の開発では意味のない、使い物にならないデータかもしれませんが、後々大いに役立つ時が必ず来ます。上述の、柔らかくしたいのに硬くなったという技術は、後々、硬くしたいという技術開発を行う時が必ず来ますので、その時までストックしておくのです。これが、「アイデアストック」と呼ばれるもので、極めて重要です。
アイデアストックは、多ければ多いほど、後の研究開発に活かされます。多くのアイデアストックを蓄積するためにも、実験や試作のデータは、「目的との合致」で見るのではなく、「普段との違い」「他との違い」で見ることが重要です。つまり、「いつもと様子が違うぞ」「他とは何か違うぞ」という感覚を大切にすること、これが鉄則です。「普段との違い」「他との違い」という視点でデータを見た結果、「違う」と判断された場合、それは有用なデータとなります。そして、「違う」という判断が、目的と合致した機能が得られているのか、そうでない機能なのかを、次のステップとして判断します。その結果、目的と合致しているのであれば「採用」、そうでなければ「アイデアストック」ということになります。
アイデアストックの蓄積は、後の革新的アイデアのもとになります。しかも、机上の空論ではなく、実証済みのアイデアですので極めて有用です。研究開発者としての仕事を進める上で、アイデアストックという概念、それを蓄積するためのデータの見方については、ぜひとも取り入れてほしいと思います。